軽鴨ルパンのこと

 昨日からの雨が朝から降っている。

 夜中過ぎ、激しい雨音を聞き不安になった。台風が近づいているわけでもないのにこの強い雨!梅雨の終わりの豪雨が戻ってきたみたいだ。

 ただ、エアコンを入れずに窓からの涼しい風だけで過ごせるのはいい。

 今朝、蝉の声に混じって虫の声が聞こえた。夜は、暗くなった庭から鈴をころがすような虫の声のうねりが、窓辺に立つわたしを包みこむようだ。

 暦の上では立秋を過ぎ、季節は確実に秋に近づく。コロナウィルスの感染がはじまったころはこのウィルスは夏の暑さや湿度に弱いのではないかという見方もあったが、現在はそんな見方はどこか吹っ飛んでしまった。さまざまな推論が立てられ、かなりの推論が立証できないままに消えていく。新型コロナウィルスとはどんなウィルスなのか。この全貌が捉えられるようになるのはまだ先のことのようだ。

 最近のブログで書けなかったいくつかのことを記しておきたい。

 近くの川で時々見かける軽鴨ルパン。数日前にも見かけたが、知らない奥さんがえさをあげていて、この軽鴨は飛べないと話していた。他の軽鴨たちが夜は別のねぐらを求めて、川を飛び立ちどこかに移動するのだが、ルパンはこの川の下流で夜も過ごしているとのことだ。

 そうなのか!目が開かれる思いがした。ルパンが飛べないとは一片の想像もしなかった。羽根のつけねに何か不具合があるのは知っていた。よく石の上に立って、羽根の付け根をくちばしでつっついていた。羽根もどこかそそけだって、健康そうには見えなかった。だが羽根そのものが使えない(飛べない)とは夢にも思わなかった。

 あんなによくルパンのことを見守りながら、そんな大切なことに気づかなかったのか!観察力も想像力もとぼしいのだろうか。

 朝早くこの川の下流のほうでルパンに会ったことがあったが、あれはどこか別の川のねぐらから飛んで移動してきたのではなく、夜もこの川にいたのだろうか。

 こう考えるとルパンを見る目がだいぶ変わってくる。

 「ルパン」と名付けたのは、空を飛ぶ鳥の自由さに憧れる気持ちが少し交じっている。自由に元気に君らしく生きてねという応援の気持ちだったが、飛べないとなると少し残酷な名前のようにも思える。なんて想像力の足りないわたしだろう。

 ますますルパンのことが好きになり、ますます目が離せなくなった。とはいってもルパンに行きつけの店があるわけでもなく、ここに行けば会えるという場所もなく、たまたま会ったという偶然に頼ることが多い。

 そう思うとますます会いたくなるから人の気持ちは不可思議である。

    もう一つは昨日のブログで書き忘れたこと。たいしたことではないが記しておきたい。家に来た友だちがこの1年で20キロ体重が増えたと話したので、やせていたときに着ていたスーツは着れなくなったのかと問うてみた。

 すると自分が来ていた背広を手に取って(暑いので脱いでいた)、オーダーメードの品だが10センチは身幅をひろげることができると言われたとのこと。これはズボンも同じことだと。

 10センチも大きくできるとは!なんでそんなことができるのか、背広をわたしも手にとらせてもらってよく見た。たぶん、左右の脇と背中の縫い目をほどいて縫い代から何センチかずつ広げて縫い直すのではないだろうかと思った。一か所から一気に10センチは無理に見えた。すると、襟とか袖繰りも広げればならず、太ってきつくなった身幅をひろげるために行う作業はけっこう大変だなと思った。

 わたしの好きな永田陽子さんという歌人が背広についてこんな歌を詠んでいる。

 

洋服の裏側はどんな宇宙かと脱ぎ捨てられた背広に触れる

 

 わたしはこの短歌を読んで、いつか背広の裏側を見てみたい、裏側に触れてみたいとあわく思っていたが思いがけなく触れることできた。裏側に触れたのはどこで身幅をひろげるのかという現実的な探求心のためだが、いままで感じたことのない世界を見たような、不思議な体験ができた。

 

君の手の背広をそつと裏返し背中のあたりを指でなぞる

 

裏地とふつややかな膜におおはれて背広の縫い目が透けて見へたり

 

掃き出しの窓より蝉の鳴き声が居間へと入りいいものだねと

 

われが名を付けし軽鴨飛べぬことはじめて知れば思ひは深し

 

石の上で翼の根元を嘴にてつくろふ様子をなんども見たり

 

町川の流れの上と下だけが君のすみかか終の棲み処か

 

いつまでも止まない雨を軽鴨は濡れたる羽根でいずこにをるや

 

 

 

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雨の重みで横に倒れ掛かっているグラジオラスの花

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一昨日植えた赤いペンタスと、少し前に植えた唐辛子

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赤い百日草も雨の重みに頭を垂れている

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名前の知らないつる性の夏の花