帰り道に夜桜を見る

 朝方は陽ざしがさす時間もあった。陽ざしを見て洗濯機を回した。

 軒下に通した物干し竿に洗濯物を干すために庭に出た。やや冷たさを含んだ、桜が咲く季節にぴったりの風が吹いていて、とても気持ちよかった。

 一本だけある桜の木は少しづつ花が開いてきて、期待感を盛り上げる。桜の根元に色を添える山吹がきれいだ。庭の花たちもしずかな風を楽しんでいるように見える。このまま庭にずっといて、花や庭木たちと溶け込むように時間が過ごせたら最高なのに、なにかにせかされるように家に入った。

 日中はなにかやったというほどのことはないが、3つある部屋とキッチン、廊下に掃除機をかけた。

 居間から眺められる鉢植えの黄色いラナンキュラスや赤いチューリップ、庭木の足元に群れるオキザリスの黄色い小さな花が風に揺れるのを見ていると、死んだ犬たちのことが思い出される。特にこの家に短い間しかいなかった老犬ももこのことがどうしても納得できないような気持にさせる。

 わたしが納得しなくても現実は現実だからしかたないのだが。

 この家で過ごす時間は犬たちの不在が色濃く残っている。

 昼食後しばらくして洗濯物を見に広縁に行くと庭木に雨のしづくが光っている。雨が降っていることに気づき、洗濯物を取り入れたが小雨だったのでほぼ大丈夫だった。

 犬たちの影を振り切るように夕方近く外に出た。

 バスに乗って等々力駅近くまで行き、駅のそばにあるカフェに入った。この店は最近の行きつけの店になった。さらにいくつかの行きつけの店を見つけたいという気持ちがある。駅ごとに行きつけの店を見つけてもいいな。

 壁に向かった一人席を確保してカフェラテを注文した。持ってきた馬場あき子さんの歌集『あさげゆふげ』を読んだ。短歌を読みながら触発されて自分の歌も詠み、ラインのキープメモに送った。

 1時間半ほどいて店を出た。帰りは歩いて、散歩を兼ねる。いつも渡る信号が待ち時間が長く、渡らずに歩くと前方に夜桜が見えてきてこの道でよかったと思った。街灯に照らされ、桜の木と隣り合う楓や名前の知らない木の若葉も花のように見える。夜の若葉もきれいなものだとしばし眺めた。

 

犬の名に因み買ひにしもも色の首輪やおもちや捨てがたく置く

 

暑き日に背広を脱ぎて丁寧に折りたたむ人見るともなく見る

 

 

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