降りみ降らずみの時雨

 お昼頃まで曇りでどんよりしていたがほとんど雨は降らなかった。
 11時過ぎに思い立っていつも行く特別支援学校に向かった。さくらフェスタを開催すると何日か前に聞いたから。途中、買い物中の犬友だちのひとりに会ったので特別支援学校に行くところと言うとわたしも行くと言いいっしょに行った。
 さくらフェスタは10時から12時までで、終わりに近かった。体育館の壁際にテーブルが並べられ、生徒さんが育てた野菜や手作りの木工品、手芸品などを並べて販売していた。舞台の上では葛のつるで作ったリースとさまざまな木の実、ドライフラワー、つる性の野草やエノコログサの穂を乾かしたものなどが並べられ、リース作りのワークショップが行われていた。
 わたしはあんのん芋と唐辛子を買い、友だちは何も買わなかったがあれこれ見て回った。給食用の大きな部屋がカフェになっているので最後にそこで珈琲を飲んだ。
 近所にご主人を亡くし同時に今までやっていた商売もやめ、落ち込んでいる奥さんがいて、福祉関係の人が手助けしていることを友だちが話した。わたしも気にしていたのだが何をしていいのかわからなかった。気持ちが落ち込んだらいつでも玄関の呼び鈴を鳴らして、と伝えていたがほんとうはこちらから訪ねたほうがよかったかもしれない。
 具体的には近くの保育園で午後何時間か補助的な仕事をするようになったらしい。ひとりでいて時間をもてあますと悪いほうにばかり考えることがあるのでいいことだと思った。友だちは手編みの帽子をその奥さんにあげたと話した。気持ちの支えになるにちがいない。
 友だちとぽつりぽつり降り始めた雨のなか家に帰った。
 午後は降りみ降らずみの時雨。「降りみ降らずみ」とは降ったり止んだりの雨のこと。武蔵小杉の歌会にこのことばを使った歌を詠んだ人がいて知ったことばだ。
 雨の中、庭に出て柿や桜の落葉を掃きよせ、腐葉土を作るゴミ袋に入れ、柿の木のそばに掘った穴にも放りこんだ。
 こういう雨の日は柴犬レオを思い出す。2012年の今頃だと思う。柿の落葉が庭土をおおい、今日のような雨が降っていた。レオは庭で興奮気味に走った。庭木の間を縫って時にぶつかりながら。あのときも落葉を入れる穴があって、柿の落葉が積もった穴に落ちてレオは驚いた。その時のレオの様子がいまもあざやかによみがえる。
 もう庭を走り回る犬はいないから庭は寂しそうだ。雨だけが静かに葉っぱを揺らしている。


 庭の落葉が守りたかつた約束のやうに見ゆる日炬燵で本読む

 目の隅の風に吹かれる一枚の枯葉 果たせぬ約束のやうに

 駒沢の公園界隈 秋の陽の照らす亡き人と犬ありし日

 十年前(ととせまえ)母と車で過ぎにけり銀杏黄葉今日はひとり

 生徒らの手作り品並びをリさくらフェスタに地域が集ふ

 千日紅に鬼胡桃くさぐさの恵み葛のリースに飾る

 箪笥の隅に残しし母のエプロン92年のかけらのやうに

 涙こぼれてやまずエプロンを七日前まで母は身につけし


 人去りし保育園の庭 芋を焼き終へし石は熱をおさめる

落葉掃除をしていない庭隅
こんなところもレオは走り回った

庭の隅に掘った穴に柿の葉を掃き入れた
春までにもっともっとたくさんの葉を入れて土で蓋をする