雨の日、「センチメンタルな旅」を観に行く

 今日は午前中早めに家を出て、東京写真美術館で開催中の荒木経惟の「センチメンタルな旅」を観に行くつもりだった。
 ちょっと朝寝坊をしたが10時半ごろ家を出た。雨は降っていないが降りそうなので折り畳み傘をバッグに入れた。
 地下鉄恵比寿駅からちょっと歩いて恵比寿ガーデンプレイスにある東京美術館に着いた。ここは60歳以上になると割引料金が適用され、さらに先週行った東京オペラシティの写真展の半券で割引になった。
 今回の展示は荒木氏の奥さん荒木陽子さんを被写体とした写真が中心となっている。出会いから結婚、新婚旅行、結婚後の生活、闘病生活、別れとその後・・・・・・・20数年の時間が撮られている。
 二人の新婚旅行を撮った写真は1971年に「センチメンタルな旅」として自費出版した。その写真が108点ぜんぶ展示され見ることができた。このうちの何点かは展示会などで見たことがあるがぜんぶ見るのははじめて。いいなあと思う写真が何枚もあり、見に来てよかったと思った。
 「東京は秋」はフリーのカメラマンになってから撮った東京の街の写真と、荒木氏と奥さんとの会話で構成された写真集から何点かの写真を展示。皇居前で撮った新婚夫婦の写真は写真集の表紙になったもので、ふたりの服装も表情も昭和を感じさせ、大きなサイズで展示され見応えがあった。
 「陽子のメモワール」では「愛のバルコニー」という写真がいい。夏のバルコニーで洗濯ものを干している妻を後ろから撮影。空には大きな雲がひとつ。こういう時間があったのだという感慨。一瞬で過ぎていく時間だがそれだからこそ写真を撮る意味があるのかも。
 奥さんが作った食事を荒木が撮った写真は病気になり余命を告げられてからカラーからモノクロに変わる。「冬の旅」では奥さんの最後の誕生日から闘病生活を経て死を迎え、葬儀後までの日付入りの写真だ。最後をを迎える妻に花を持って行く夫(荒木)の影が階段に映っている写真もいい。
 「近景」で展示されたモノクロ写真のバルコニーは雨水がたまっていて、愛猫ちろが背中を見せてしゃがんでいる。奥さんが洗濯ものを干している「愛しのバルコニー」の陰画のような写真。
 新婚生活を送った住み慣れた家を引っ越すにあたり、長年にわたりバルコニーから撮影した空の写真をこの写真展ではスライドショーで展示している。「三千空」というタイトルで。同じ場所から撮り続けた違う日の空は撮る人の心模様となっている。


卵内のひなのかたちに雲浮かぶ荒木が撮りたる「三千空」

白じろと彼岸花空に散りぼふ荒木経惟「三千空」


雲は空の傷のごとし還らぬ日を恋うふるがごとく

バルコニーにたまる雨水黒々と不在の重さに首傾げる猫