東京都写真美術館に行く

 朝も日中もここ数日に比べると気温が上がった。
 お昼前に近くの特別支援学校に行き、売店で野菜を買い、校内のカフェでコーヒーを楽しんだ。いつも朝の散歩をする友だちといっしょである。葉が付いた大根と人参を手に入れることができた。
 家に帰り昼食後すぐ出かけた。陽射しがあたたかく外出したい気持ちになったから。恵比寿ガーデンプレイス内にある東京都写真美美術館で、東京をテーマにした写真展が二つ開催されているのを今年に入ってから知り、観に行きたかった。
 ひとつは2階展示室で開催中の「東京・TOKYO日本の新進作家vol13」で、6人の写真家がそれぞれの視点で東京を撮っている。どの作家の写真も近々に撮影されたもので同時代を生きている人間として展示された写真を体験することができた。鑑賞というよりことばより体験ということばを使いたい。
 2011年から2016年の東京をモノクロの写真で切り取った中藤毅彦氏。雨の夜の渋谷のスクランブル交差点を撮った写真や、電車に乗っている若い女性の顔など印象的は作品をたくさん見ることができた。
 佐藤新太郎氏はスカイツリーのある風景を完成前から撮った作品を展開している。デジカメの写真を何枚もつなぎあわせて迫力のある広角の風景を作った。2009年から2016年の8年間に渡ったスカイツリーのある東京物語みたいなものか。写真が撮られたそれぞれの年が見ているわたしにとってさまざまな出来事があった年であり、自分自身の8年と重ねるように写真を見た。
 自分の時間と重ねるということでは田代一倫氏の写真が最たるもので、(こういう写真の見方がいいのか悪いのかわからないが)2016年5月9日に中央区月島で撮影した写真を見て、人は他の人とはまったく違う時間をそれぞれ生きていることを思った。田代氏は東京の街をカメラを持って歩き、そのとき出会った人を撮影している。たまたま5月9日に出会った人を撮った写真は女の人が古い街並みのなかで立っているものだ。その日は、老犬ももこが食べたものを全部吐いた日でそれから闘病生活が始まり、わたしには忘れられない日となったが、この写真の被写体になった女性にとってもある意味で忘れらない日になったかもしれないと思った。
 とりとめのない感想になってしまった。もう一つの東京をテーマにした写真展は「TOPコレクション 東京・TOKYO」。美術館が収集している内外の写真家の作品を展示している。こちらの写真は撮った年代は戦前から近年まで幅広い。こちらの写真も自分自身の時間と重ね合わせて見る作品が多かった。そうでないのもあるが。


 わが家に来し保護犬の幼ない頃はいかなるやと思ふ亡き後

 明るめる東の空の月影がさよならを言ふ前の目に似る

 亡き犬の名 口からふいに飛び出せり友だち犬に語りかけるとき

 写真を撮る男の姿ありこわされる予定の朝日をあびる

 くさび形の濃き影伸びて少女の顔にマスクのごとくありぬ

 さしている傘は横断歩道模様 横断歩道をわたる女の

 雨の夜のスクランブル交差点 傘をさす海月(くらげ)たちが待ちおる

 最後の3首は中藤毅彦氏の写真を見て詠んだもの。