友だちの家で昼食をごちそうになる

久しぶりに青空がひろがり、夏が戻ってきたような暑い一日になった。
 昨夜は短歌集を読んでいるうちに気づかず夜中近くまで起きていた。居間から自室に移動してさあ眠ろうというときになって、突然亡くなった老犬ももこのことが思われて泣き出してしまった。なにがきっかけだったのかわからない。ただ、ひと月あまりが過ぎて、ももこがいたということが少しずつ遠ざかっていくような気がした。朝起きればももこにおはようと声をかけ、わたしの心の中では毎日ももこのことを思い、話しかけたり、いっしょの時間を過ごしているような気になったりするのだがまわりの人たちはももこがいたということさえ忘れたように見える。この世の存在でなくなったももこの儚さに涙した。
 眠りにつく前に泣いたので眠りが浅かったのか朝までに数回目を覚ました。最近では珍しいことでいつもは朝までに一回目覚めることが多い。
 朝起きて外に出ると青空に白い雲が変幻自在にたなびいている。翼をひろげた大白鳥のような雲。白いオーロラのように空いっぱいに広がる雲。昨夜の悲しみを洗い流してくれたが心の底にももこへの思いが静かに折りたたまれた。
 午前中は近くの特別支援学校に足を運び、校内のカフェで近所の友だちと待ち合わせた。ムッとするような暑さにたまらず冷たいハーブティを注文した。カフェのお客さんが多く、いつものようなのんびりとした雰囲気でなく活気があった。
 友だちとしばらく話し、店を出た後誘われて友だちのご自宅へ。お茶を飲みながら話し続け、お昼が来たから帰ろうと思っていたら昼食を誘われてごちそうになった。料理好きの友だちは娘さんのお弁当を作るためでもあるのだろう、かなりの種類のお惣菜を作り置きしてある。小皿に盛った5〜6種のお惣菜とお味噌汁、雑穀米のごはんをいただいた。
 食後も話した。亡くなったご主人が夢に出てきて目が覚めた時、あっそうか、もういないんだと気付いたという話を聞いて、友だちは笑っているが寂しく思ったのではないかと感じた。
 長居を詫びて友だちの家を後にし、家に帰るとももこがいない家ががらんとしていた。外から家に帰ってくる時がいちばんももこの不在を感じる時かもしれない。この不在の重さに耐えるように、ももこがいないということを確かめるように部屋から部屋へと歩き回った。からだを動かせば心が紛れるかもしれないし。


 昨夜遅くまで読んだ短歌集は「大西民子全短歌集」で、この中には愛犬を亡くしたかなしみ、たった一人の肉親となった妹を亡くしたかなしみを詠った歌がいく首もある。

替へてやる亡き犬の水 朝々にかなしみてなす仕事のひとつ 

雪柳の花のこまごま散りそめぬ帰ることなき犬の名を呼ぶ

犬と歩みくまぐまを知れる河原に今朝はまだらに雪は積れる

まだ何か奇蹟を待ちてゐるわれにをりかさなりて弔電は来る

水道をとめて思へばかなしみは叩き割りたき塊をなす

妹よ父よ母よつぎつぎと蓋をして蝋の火を消しゆきぬ

座りても立ちても雨の音溢れ今年は犬も妹もゐず

はかなげにゐし日を思ふ片羽根を閉ぢて墜ちたる鳩と告げつつ

「大西民子全歌集」(雲の地図より)

 これらの歌を記しながら泣けて泣けてしようがない。歌を読んで泣くのは、柴犬レオが死んだとき読んだ「犬の歌」以来である。

そろそろ最後の花になるかもしれない朝顔

早朝の空