さよなら、ももこ

 今年の5月から腎不全末期の闘病生活を送っていた老犬ももこが今日の午後3時頃、息をひきとった。脳にも何かの病気を抱え、両手足が不全麻痺になり、ひと月半くらい寝たきりになり、食べたり飲んだりも不自由になっていた。
 8月21日の夕方、嘔吐を繰り返してからは獣医師にもう長くないと言われていた。ここ何日かは毎日、未明の2〜3時間を鳴き続けてわたしを悩ませていた。昼間も寝ているとき以外は鳴いていることが多くなった。
 今日のももこは朝ごはんも昼ごはんもどろどろのポタージュ状の食事をソース入れから口に直接、流し込んだが飲み込まず、口の横から流れ出し、ときには口元から吐き出した。ゼリーやOS−1を薄めたものはほんのわずか飲み込んだ。
 ももこの様子が気になるが連夜睡眠不足のわたしは午前中はももこが眠っている隣の部屋で仮眠を取り、ももこの鳴き声で目が覚めた。トイレに違いないと思い抱いて玄関外に出すとおしっこをした。わたしの手で膀胱を刺激しながらの排尿である。いつもよりぐったりとしているももこだったが、前足はしっかりと踏ん張ていた。ただ、用をたした後、横たわらせるとかなり弱った表情を見せた。
 お昼ごはんをわたしが食べた後、ももこにも手作り食を新しく作り、口に流し込んだが飲み込まなかった。お昼過ぎ、2回短い時間、買い物に出たが出る時、ももこにすぐ帰るから待っていてねと声をかけた。
 ももこに異変が起きたのはわたしが昼食後の遅い歯磨きをしているときだった。歯を磨きながらももこの様子を見ていたが鳴き出したので、トイレかなと思い、待っててねと声をかけると手足ががくんがぐんとけいれんした。急いでももこのそばに行くとすぐおさまった。おしっこをしたいのかと思い,ももこの膀胱を触って確かめるとほとんど力を入れていないのにたくさんのおしっこを出てきた。同時にももこの様子がおかしくなり、口を半開きにして、かくかくとあえぐように口を動かし、目の力がなくなった。
 ももこ!と呼んだ。顔に手をふれていたかもしれない。心臓に手を当てると動いていたので、一時的に気を失っているのではと思い、何度かももこ!と呼んだ。だが心臓はすぐ動かなくなった。息が止まり、その後心臓が止まったのである。この時のももこの心臓の鼓動をわたしの手は忘れないだろう。この世に生きた最後のももこの命の力だから。
 息をしなくなり心臓も動かなくなったももこ。覚悟をしていたがなんて寂しいのだろう。どんなに元気のない目でもわたしを見てほしいと思ったが、最後の苦しみが長くなるより、あっけなく息を引き取ってくれてよかったとも思った。

 この数日、ももこの顔をほとんど毎日見に来てくれた犬友だちに知らせるとすぐ駆けつけてくれた。まだ暖かいももこと最後のお別れをしてくれた。もう一人の犬友だちも来てくれた。電話の向こうで泣いてくれた。昨日、ももこに会いに来ようと思ったが果たせず、今日の夕方来るつもりだったとのこと。
 こうしてももことの別れを悲しんでくれる人がいて、ももこは幸せかもしれない。たった1年5ヶ月あまりしかこの家にいなかったのに、ももこのことを気にかけてくれる人ができたのはももこの人徳というか犬徳のためではないだろうか。
 さよなら、ももこ。できる限ることをしようと思ったが至らないことが多すぎてごめんね。お母さんを許してね。ももこ会えて、短い間でもいっしょに暮らせて本当に幸せだったよ。とてもおだやかな性格で、疑うことを知らない純粋なももこ。優しい心根にいつもいやされたよ。ももこみたいな優しい子に会えたことは奇跡としか思えないよ。これからも、ももことずっといっしょだよ。
 レオ兄さんと仲良くしてね。

 ももこは息を引き取った後すぐ元の家に帰ったようなきもする。あんなに帰りたかった家に死んでから帰れるなんて悲しいが、ももこはほっとしているかもしれない。でも、ももこの人生の余生を過ごした家を、お母さんを思い出したらまたこっちに帰っておいで。


 飲みたくない薬を飲んだり、食欲がないのに食べ物を食べたり、毎日点滴をしたり、注射もしたり、腎不全末期の闘病生活はももこにとって辛いこともあったね。それでも一生懸命生きてくれてありがとう。あなたが大好きだよ。