老犬ももこの爪切り

 おだやかな陽射しが降りそそぐ。日中は風があったが夕方になると風はぴたっとおさまった。
 推定年齢12歳の老犬ももこは、季節の移り変わりとともに昼間眠る場所を変える。夏の間は直接日がさしこまない八畳の仏間に、陽射しがやわらいでからは庭に面した広縁で眠っている。木漏れ日に包まれるように眠るももこを見て心は満たされながらも、亡くなった柴犬レオのことを思い出した。レオも秋になるとこんなふうに眠っていたから。レオは八畳間の外廊下で眠るのが好きだった。
 眠っているももこの足先を見ると、光に透けて爪の中心を通っている血管が見える。足をそっと押さえて、ギロチン式の犬用爪きりで爪先を削る様に切った。ほんの1ミリほど。少し前から、4本の足先の爪を少しづつ切ってきた。6月に動物病院で切ってもらってから気がついたらびっくりするほど伸びていた。歩いているとき、長い爪が歩行を妨げているようにも見えた。前足の狼爪は伸びて丸まっていたので、思い切って切ったら血が滲んだ。それから後は気を付けて1ミリずつ切るようにしている。時間をかけて1ミリを何回か重ねて短くしている。
 昨日のことだが、近くの宅地で棟上げの儀式をしていた。テントの下に家族が立って並んでいて、神主さんが儀式を進めていた。細かく切った紙を空中にまくと、風の具合か、すぐには地面に落ちないで無数の蝶のように空中をしばらく舞っていた。陽の光をあび、きらきらと光ってきれいだった。蝶が空中から消えた後、さらに何回か紙をまいたがすぐ下に落ちてしまった。夢みたいな瞬間だった。
 遠い昔、まだ小学生だったわたしも同じような儀式を経験した。父母と弟とともに。こどもにとってもわくわくするような時間だった。
 昨日、棟上げをした家はこの界隈ではかなり目立つ豪邸になりそうだ。坂下の敷地に盛り土をして土留めの塀がかなり凝ったものだから。他の家ではコンクリートを使っているのに、二種類の石を削ったものを積んでいる。

気持ちよさそうに眠るももこ
ももこは爪切りをしても、ぜんぜん嫌がらないので切る方は楽である
爪を切り過ぎて血が滲んだときも、まったく痛そうにしないのでこちらが驚くほど

千日紅にシジミチョウがとまっている
庭には揚羽蝶やクロアゲハなどいろいろな蝶が舞い,さまざまなトンボが飛んでいる