侯孝賢監督の映画「黒衣の刺客」を観る

 数日前から見に行こうと思っていた映画を観に行った。
 この数日雨が降って外出をためらっていた。今日は雲が多い天気でとときどき雨が降ったが行こうという気持ちになれた。
 侯孝賢ホウ・シャオシェン)監督はわたしの大好きな映画監督で、20年ほど前、台北を訪れて監督にインタヴューしたことがある。そのときは監督の映画の舞台になった台湾の町々を訪れ、取材もした。
 あるときから映画を観ることから遠ざかり、侯孝賢監督の作品を観ることからも遠ざかっていた。
 「黒衣の刺客」は想像していたのとは良い意味で違っていて、久しぶりにいい映画を観たと思った。唐の時代を舞台にした時代劇で刺客に仕立てられた女がある使命を帯びて、生まれ故郷に帰ってくる。使命とはもと許嫁だった従兄を刺殺すること。
 一国の王となった従兄がその正妻と過ごす寝屋に忍び込み、自分が命を狙っていることを知らせるあるものを置いていく。
 登場人物の名前やその関係性がいまいち掴み切れず、どの国とどの国がどういう関係にあるのかもよくわからないのだが(つまりスト―リーがよくわからない)、そんなことが問題にならないほど映画はすばらしい。
 わたしがよく観た侯孝賢監督の初期の作品にあるような風にそよぐ木立の映像、冬枯れの野原や冬木立の美しさ。一口で言えば映像美なのだが、ただきれいなだけではない。映画になっている映像美なのである。
 いちばんこの映画を観てよかったと思ったのは、女刺客がいわゆる女刺客らしくないというか、運命をかわす身のこなしを身に着けているというか。
この映画を観る前から、観た後重たい気持ちになるのではないかとどこかで危惧していたが、そんなことはまったくなかった。こういう映画を見続けたいと思った。