一本の傘から

 出がけに玄関脇の傘立てにさしてある、黒地にブルーの小花模様の傘をちらっと見たら、いろいろなことを思い出した。
 この傘は自由ヶ丘の傘屋さんで買ったものだが、その傘屋さんは店をたたみ、北海道に新天地を求めて移住した。
 2010年の春、老犬レオの友だち犬、大型犬のボルゾイが亡くなった。桜の季節が終わり、すぐの頃だ。その大型犬とは身体の大きさが全然違うのに、なぜか気があうようでレオは散歩の途中で会えば親しげに挨拶をかわしていた。
 そういう仲だったので、飼い主さんとも言葉をかわす関係で、その愛犬の死を悼んで犬仲間でご自宅に弔問をした。その日は雨で、その小花模様の傘を持って行った。亡くなった犬の遺影の前に手を合わせた後、コーヒーをいただきながらしばらく話した。その方は日本画をたしなんでいて、居間には畳一畳分より大きな愛犬の絵が飾られていた。真っ白な毛、すらりと背が高く、脚の長い犬が幸せそうな表情で描かれている。
 帰り際に玄関に置いてきた傘を見て、きれいな模様ねといわれたのがこの傘だ。
 3年前の雨の日を思い出させてくれたこの傘もだいぶ古びてきた。
 その友だち犬が亡くなった年の6月は、父親が救急車で入院した。3年前の春先から5月、6月と、傘がきっかけになり、時間を遡った。
 もうすぐ父の日だが、3年前は病院にいたので花を贈った憶えがある。オアシスにさしたアレンジフラワーだ。寝間着を贈る気持ちはぜんぜんなかった。あの頃は入院が長くなるなどとはまったく思っていなかったから。2週間くらいで退院でき、家で療養すれば前と同じように生活していけると思っていた。
 家でとっている新聞を毎日持って行くと、ベッドから起き上がって眼鏡をかけ、新聞をめくっていた。一度退院する前、看護婦さんと車いすの父を移動させて、病院の中庭みたいなところで過ごしたこともあった。
 だが入院生活は長くなった、一か月くらいで退院したが家にいたのは3日だけで、すぐまた救急車で入院。あれよあれよという間に、思ってもいない方向に動いて行った。
 それからはよく寝間着を買ってあげた、夏は甚平を何枚も揃えた。その年は例年にない猛暑で、記録的な人数の熱中症患者が救急車で運び込まれた夏だった。その病院の病室は冷房が効き過ぎていて父の身体が冷えるのではないかと心配した・・・・・・・・
 ひさしぶりの雨の日。ふと目にとまった傘からとりとめもないことを考えた。


アガパンサスのつぼみ


夾竹桃の花
この花が咲くと、父が入院した頃のことが思い出される
夏の匂いがする花だ



 昨夜のレオは頻繁に起きた。1〜2時間おきに起きていた。最初はいっしょの布団に眠ったが1時間くらいたったころ、ふと目を覚ますとレオが枕元の壁際に立っている。トイレ!と思い、抱いてレオの部屋に連れて行くが灯りをつけるのに手間どい、うんちの一部が抱いているレオから床に落ちた、床におろすと、トイレシートの上にさらにうんち。少したち今度はおしっこ。薄めた牛乳をたくさん飲んだのでこれで落ち着くかとまた布団に寝かせたが、こんどは30分で起き上がろうとした。また抱いてレオの部屋へ。こんどはトイレではなく、お腹がすいていたようでドッグフードをやったがまだ興奮している。
 わたしはできることがぜんぶやった感じがしたので、パソコンを立ち上げインターネットに接続してしばらく時間をつぶすがあまり落ち着かないので、午前3時ころになっていたが抱いて外に連れて行った。
 道路にうずくまって段々眠たそうになってきたので抱いて家に帰るとこんどは落ち着いて横になった。
 レオとわたしは別の部屋で眠り、次に起きたのは6時半ころ。
 眠ったのか眠っていないのかわからない夜だった。

午後、友だちとのランチから帰った後、老犬レオは今日はじめての食事をして
その後、抱いて駐車場に連れて行った
おしっこをするかなと思ったが
うずくまって眠り始めた


午前中、母親が毎年梅を漬けるという友だちから電話があり、今日梅の実を受け取りたいとのこと。重たいので友だちを車でピックアップして、梅の実ごと友だちの実家に送り届けることにした。わたしが梅の実がたくさんあるのでどうかしらと電話した後、友だちの知人からも同じような電話があり、今年は豊作なんだねという話しになった。
 梅の実を送り届けた後、駅前で友だちとランチ。この前会った時より元気になっていたので少し安心した。恐縮だがランチを奢ってくれた。ありがとう。別に暮らしているご両親が高齢になり、日常の買い物もままならず、何かと電話があり、いろいろ届けたりしているので、車を運転したいと話していたが、どうも父親が彼女に運転させるのを嫌がっているようだ。友だちも車を持つと何かとコストがかかるので躊躇している。