「喜びも悲しみも幾年月」

 また大雪が降るのかと思っていたら、肩すかしだった。夜中や早朝に起きた時、あまり気温が下がっていないので雪は降らないなと思っていたがその通りになった。
 昨夜はレンタルしていた期限切れ間近のDVDを見た。木下恵介監督の「喜びも悲しみも幾年月」である。2時間40分の長めの映画だが観てよかった。NHKクローズアップ現代」で木下恵介監督を取り上げたのを観て、作品を鑑賞したくなったのである。
 昭和7年から映画は始まる。自分の父母の人生と重ね合わせながら観た。日本が太平洋戦争へと傾斜していく時代だ。灯台守の新婚夫婦(佐田啓二が夫、高峰秀子が妻)が観音崎灯台にやってきた日が、日本が上海で戦争の火ぶたを切った日に重なる。
 灯台守は日本中の灯台を転々とする。若い夫婦は北海道の小樽近くの灯台(近くの街まで4里ある)に転勤となり、その地では二人のこどもをもうけ、家族が増えるが、仲間の灯台守は妻を病気で亡くすなど、幸不幸が交錯する。
 九州の離れ小島にある灯台は10日に一回、来る船で本土とつながっている。施設は灯台だけで住んでいるのは灯台関係者だけ。仕事がある大人たちはまだしも、幼いふたりの姉弟は、遊ぶといってもこどもは彼らだけという環境で無口になり、動きもにぶくなってくる。テレビも携帯もゲーム機もない時代なのだ。
 映画は昭和7年から昭和30年までの灯台守の家族を描いている。戦争末期、本空襲が頻繁になると灯台は爆撃の対象になり、ついには明りを灯さなくなる。
戦後、夫婦はこどもをひとり失うという悲劇にも見舞われるが、お互いを支え合いながら乗り越えていく。
 夫の仕事に対する使命感や、妻の逆境にあっても前向きに考える強さ、明るさ、夫婦愛、家族愛が困難を乗り越える力になって、生きることはすばらしいことなんだと思えてくる。
 父母も戦争に傾斜する時代から、太平洋戦争に突入し、原爆が投下され、敗戦を迎え、戦後へ、という時代を生きていた。この灯台守夫婦が結婚した頃、母は女学生で父は中学生だから少し若いが、青春時代が戦争と重なっている。
 そういう時代にあっても母はたくさんの友だちに恵まれ、楽しい娘時代を過ごしただろうし(残された手紙と写真で推測)、おしゃれも楽しんでいたようだ(戦争末期はともかく)。父は家を飛び出すようにして東京に来て、戦地(中国)にも行っている。
 当時の日本がどんな状態であったか、そのほんの一端だが映画で観ることができたのもよかった。
 映画の中では、高峰秀子演じる妻は戦争に対して、戦艦も石油もなくて勝てるはずがない、早くやめちゃえばいいのに、と言いたい放題だが、夫は国を守るため国民総玉砕してでも、と思っている。木下監督自身はどう思っていたのだろうか。

 昨日は東シナ海の公海上で、海上自衛隊と中国軍艦の危ない接近があった。戦争に近づく、どんなこともしてはいけないと思う。平和な時代が続くことを心から願う。