墓参の縁

 1週間ぶりくらいに父母の墓参りに行った。お寺が近く、徒歩7〜8分くらい、車で買い物の帰りに寄るなど、ふつう1週間に2回ほどは行っている。前に訪れたときと庭の印象ががらっと変わっているのに驚いた。ベニバナトキワマンサクの濃い桃色の花が目に飛び込んできた。お寺の正門を入ってすぐのところに、ふつうの生け垣より2倍以上の高さで木の壁を作り、それが桃色に染まっている。この前は咲き始めだったのか、印象に残っていなかった。見渡すと山桜が満開で、墓地にそそり立つ大銀杏の芽吹きの色が木全体にひろがっていた。
 墓地に入ると1週間前に供えた花はまだ色が残っていたが、水はほとんどなくなっていた。白いレースフラワーと、ピンク色のグラデーション、濃い紫色の2種のトルコキキョウを持ってきた。レースフラワーの茎を手で折っていると、「白いのはなんでしょう」と聞かれた。わたしは花のことかと思い、「レースフラワーです」と答えると「花ではなく、ほら、白い粉が一面に・・・・・」と言うので、視線の方向を見ると、墓石に白い水玉模様が無数にあり、地面には顆粒状の白い粒粒が散乱している。「なんでしょうね。わからないと気になって。あちこちにあるんですよ」と言うので、周囲を見渡すと墓石が白く汚れているものが多い。
 いろいろな可能性をその女性と話したが、結局わからなかった。おかしかったのはわたしが「何かの消毒ではないでしょうか」と言うと「必要がないじゃないの」と即座に返ってきたこと。確かに墓地を消毒してもしかたがないと納得した。粒粒は、例としてどうかとは思うか、出しの素のような顆粒状なので、例えばおがくずとか、しっくいの壁をこわしたときのほこりとか、墓石を粉砕した粉とかではない。
 この話がきっかけとなり、この女性が娘さんの墓参に月命日毎に、隣の県からやってくることがわかった。けっこう大変ことだ。わたしはすぐ近くなので月命日の墓参も大変ではないが。「かわいそうな気がして・・・」と言った。ご主人の実家がこちらのほうで、娘さんは自分が育ったところから離れた墓地に眠ることになった。そんなことも墓参を欠かさない理由かもしれない。お互い何の縁もないふたりだが、墓参が縁となり、ことばをかわした。もう二度と、声をかわすことはないような気がするが、この墓地に眠る娘さんと、月命日に必ず墓参に来る母親のことは忘れないだろうと思った。

色鮮やかな花の壁が迎えてくれた