移ろう季節の中で

 老犬レオは朝起きてすぐがいちばん調子が悪く、朝の散歩はくるくる回ることが多い。家の前でおしっこをした後、抱いて用水路沿いのサクラ並木のところまで行った。
そこでリードをとって、好きなようにさせていた。くるくる回るというより、ただ立っている。かと思うとくるくる回り出す。頭が傾き、体も傾き、ころびそうだがころばない。しばらくして疲れたのか、サクラの花びらが敷き詰められた道路にごろんとなった。
 レオを見ながら、花びらが落ちて、さくらしべが目立つ木や、花びらを浮かべて流れる川を眺めた。川にはつがいのカルガモが泳いでいる。どこに巣作りしようかなどと話しているのかもしれない。羽がちぎれたカラスが一羽、近所の人が夕方やっているパンくずの残りをくわえて、いっしょうけいめいサクラの木を上っていく。何日か前、暗くなってからここに散歩に来た時、サクラの枝にじっと止まっていたカラスはこのカラスかもしれない。今は繁殖の季節で、カラスは子育てに励む時期なのに、このカラスは相手がいないようだ。
 この用水路沿いのサクラが満開のときに、神がかり的な美しさと感じた。今、神がかり的な美しさは消えたが、サクラは移ろいの中にこそ美しさがあると思った。葉を落した冬木立ちからつぼみをふくらませ、花への期待をかきたてて、花開き、満開になり、散るときも美しい。散った花びらが川を流れるのも、しべと若葉が混じったサクラも、新緑のサクラも、夏の緑が濃くなったサクラもまた目を楽しませてくれる。サクラの花が終わっても、楽しみはまだまだ続くのだ。

サクラの花びらの上でからだをまるめて休む、レオ