花冷えの日

 風はないがどんより曇って、肌寒い。久しぶりにコートを着て、車に乗った。
 駅前に老犬レオに食べさせる食材を買うのが第一の目的。友だちに贈るちょっとした贈り物も探したかった。
 スパーマーケットで買い物を終え、レジ袋に買ったものを入れてから、レオのおやつを買い忘れたのに気付いた。食材のほうは買ったのだが。店にもう一度戻り(売り場がレジの近くなのでよかった)、レジをすませる。
 レオが好きなクロワッサンでも買いに行こうと思って、店を出ようとすると、名前を呼ぶ声。ずっと気になっているが電話ができないでいた友人だ。この前は元旦に電話で話したきり。友だちがレジをすませる間、少し話した。歩くのが大変になったお母様を連れてタクシーに乗り、買い物に来たようだ。
 友人は昨年救急車で入院した経緯があるので、体調の方は大丈夫だった?と聞くと、いろいろあって大変だったという返事。脳波の検査をして、なにか見つかったらしい。
 お母様がいっしょなので、またゆっくり話そうということで、気になるが店先で別れた。この友人とは駅前の店で偶然によく会う。同じ建物内にある本屋さんで2回ばったりと会ったことがある。今日も、レオのおやつを買い忘れたことに気づかなければ、気づいてもまた今度にしようと思えば、友だちに会わなかっただろう。
 友だちはレオの散歩かきっかけで知り合い、親交をあたためている人なので、レオのおやつを思い出しこうなったのは、なにか(レオだろうか)が会わせてくれたように感じた。
 花寒の日だがこういう日こそ、歩いて花を訪ねたい気持ちになる。時間がないので、駅前の桜を眺めて、帰りは車で住宅街や公園の桜を少しだけ見て回った。風がなく、桜は満開の美しさを保っている。近くで見れば若葉がちらほら伸び始めているだろうが、車からは見えない。
 実は昨夜、老犬レオを外でおしっこさせた後、抱いて用水路沿いの桜並木まで行った。ここには樹齢60年以上の老木が4本、30年くらいの木が5本植えられている。
 昨夜も風がなく、今日より暖かかった。静かな桜のたたずまいに、おかしな話かもしれないが、花の精霊がわたしに話しかけてきたように感じた。街灯のオレンジ色の灯りや近くの家の灯りで桜が幻想的に浮かび上がる。くるくる回りながら歩くレオと夜桜見物を楽しみ、抱いて一区画ほど歩いた後、家に帰るとレオは疲れたのか眠ってしまった。
 レオと外にいるときから、無性に夜のドライブがしたくなり、車のキーを持ってわたしだけ駐車場に行き、車を出した。
 だが車で夜桜を楽しもうという気持ちはすぐ吹き飛んだ。深夜近く、車の数は少ないがほとんどの車がかなりの速度で走っている。深夜の運転はしばらくしていないので、勝手が違ったが、夜桜を見ることはあきらめ、車を飛ばし、駒沢オリンピック公園へ。
 ここも桜がきれいだが夜桜はひっそりと咲いていた。やはり、ライトアップ効果がないと桜の妖艶さは出てこない。
 昔のレオはこの広い公園を隅々まで歩くほど元気だった。体力、気力が充実していた。現在のレオにはその当時の面影もない。人間より4倍も早く年をとる犬の時間はかけ足で過ぎていく。人間だって、過ぎてみれば早い(あっという間)と思うのが時間というものだ。

駅前の桜
こどもの頃からここで咲いていた、
いろいろ思い出のある桜だ