昔懐かしいトランク

 何がきっかけはわからないが、なんとなく、天袋にしまってあるものを見たくなり、脚立に登って、雑巾でほこりを拭きながら、重ねた箱を床に下ろした。バスタオルや綿毛布、シーツ、食器類など、結婚祝いのお返しやお香典返しなどの頂戴したものがほとんどだ。だが奥を見ると、年代物の革のトランクが見えた。このトランクのことは最近、何かの拍子に想いだし、どこにあるのだろうと思ったことがある。もしかしたら、古道具屋に売ったかもしれないなと思い、そのまま忘れてしまった。そのトランクが天袋にしまってあったのだ。このトランクは30年以上も前、当時の友人の男性から父親が従軍していたときに使っていたものと言って、もらったものだ。分厚い革ででき、とても重たいのでトランクとして使ったのは一度くらい。あとは部屋のインテリアにしたり、収納に使っていたがこれも若い時の話。10年以上も前から場所ふさぎと感じ、一度は古道具屋に持ちこんだこともあったが引き取り価格を聞いて、売らなかった経緯がある。この革のトランクの下には、良く使っていた海外旅行用のトランクがあった。海外旅行を生きがいのひとつにしていた時期にいつもこのトランクで海外に行った。母の一番下の妹も海外旅行によく行ったので、このトランクを貸したこともあった。
 重たい2つのトランクを天袋から床におろして、中身を調べると、海外旅行用から15〜6枚の写真が出てきた。人が写っている写真は一枚もなく、当時、オープンしたばかりの渋谷の丸○や、今は再開発された道玄坂の古い民家などの写真だ。変化する街を撮りたかったのだろうか。革のトランクは30年前も年代物だったが、今見ても変わらない年代物で、その変わらなさがおもしろかった。海外旅行用トランクは当時は現役だったが、今は引退した古いだけのものになっている。どちらもわたしにとってある時期をともに過ごした、なつかしいものたち。だが場所をとるし、思い切って粗大ごみとして出そうか、古道具屋に持って行こうかと一瞬思ったが、すぐ思いなおした。断捨離はできなかった。
 今は海外旅行に行きたいとも行きたくないとも思わない、ニュートラルな状態だが、将来、もし行きたくなり、その機会が訪れたら、軽めの新しいトランク(カバン?)を買うことにしよう。

トランクの上に湯のみでも置いたのだろうか、丸い跡が残っている


キャスターがこわれているが、他はまだ使える