和紙屋さんで三回目の買い物

晴れて気温が上がった。5月のあたたかさとのこと。

5年前の今日は寒い2月らしい、どんよりとした天気で、老犬ももこを車に乗せて駒沢公園まで行った日だ。あの日の空模様、冷たい空気はいまもわたしのなかに残っている。ももことはじめて公園に行ったのだがうれしいという気持ちより不安みたいな気持ちが記憶に残っている。

 ただ、あの日のブログを読むと、これからも月に一回くらいはももこと公園に行きたいなどとのんきなことを書いているので、あのときのわたしはもっと楽観的だったようだ。不安の記憶はたぶんその後、ももこの腎臓が悪くなり8月に死んだという現実を体験したあとに上書きされたものかもしれない。

 今日は6年前の22日の寂しい思い出を吹き払うような春の陽気。

 日中は家にいて洗濯を二回し、小島なおさんの歌集『展開図』を読んだ。好きな短歌を何首もノートに書き写した。

 午前中、仏間の障子一枚の古い紙を取り除き、午後早い時間に新しい障子紙を張った。

 これから夕方に向かうという時間になって、外出した。

 障子紙が足りなくなり、この前行った店に買いに行くためだ。

 都営三田線に乗り千石駅で降り、歩きなれた白山通り沿いを歩いた。伊勢ノ海部屋の木の看板をちらっと見た。緊急事態宣言下、歩道沿いの店にはあまり人が入っていない。昼食用のテイクアウトの弁当を売っている店もある。

 5分ほど歩いて三度目の紙舗直(しほなお)に着いた。

 店内に客の姿も店員の姿もなく、わたしが扉を開けた音で女性が小部屋から出てきた。この前、応対してくれたのと同じ人だ。

 足りなくなったので前と同じ紙を5m70センチほしいと注文した。障子が14枚ほどある。仏間の障子は大きくて張り替えが大変なので業者に頼むつもりだったが、試しに自分でやってみたらそんなに大変でなくうまくできたので、そのための紙を買いに来たと話した。業者に頼むのはもったいないですよと女性。

 筒状に巻き包装した紙を受け取り、5年か6年後にまた同じ障子紙を買いに来ると話した。今回は13年目に障子の張り替えをしたが次は5~6年で張り替えたい。

 白山通りを千石駅の方向に歩きながら、5年後にわたしはどうなっているだろうとふと思った。5年後の約束したようで、大げさに言うと生きていく目的の一つができたような気持になった。5年後に行く予定のところがあるという、これもなんか不思議な、うれしいような気持にさせてくれる。

 

いずこかより旅の途中の捩花がダリアの鉢にぽつんと咲けり

 

目隠されし人の手が持つ紙袋 高級パンの文字なまなまし