五日目の月が南の空に

 立秋の少し前あたりから虫の声が聞こえるようになった。最初は細々と。だんだん昼間の蝉の声にも負けない力強さを持つようになった。
 今夜は庭に出ると虫の声が鈴を転がすような、くっきりと澄んだ音を響かせている。小さなからだでこんな声が出るのが不思議だ。
 庭の隅のほうは草引きを控えるようになった。虫たち、蟷螂やバッタ、コオロギなどのために草むらを残しておこうと思ったからだ。いろいろな生き物が棲んでいる庭がいいと思うようになった。蛇と蜂は棲んでもらいたくないが。大きな蜘蛛も嫌いだが多分いると思う。わたしが近づいたとき逃げる大きな蜘蛛を見たことがある。
 夕方、少し離れたスーパーマーケットに買い物に出かけたが財布を忘れてしまった。買い物に行く前に鉢植えの水やりなどをして動き回ったので、財布を持っているかどうか確認しなかった。
 財布を取りに家に戻り、店に再度行って買い物をした。西日が強いが建物で陰が出来るのでそんなに気にならなかった。ほどよい風があって歩くのにちょうどいい。猛暑日が続いていた頃だったら、夕方といえど店との往復はやめるだろう。

 虫の声を聞くためと、夜空を眺めたかったので夜の庭に二回も出た。濃紺の空に白い雲が不規則に浮かんで、空がひび割れているように見える。そのひび割れから月がときどきのぞく。雲に埋もれている時間が長く、月の姿がぜんぶが見えないが三日月より大きく、半月よりは細い。五日目か六日目の月だと思う。
 あまり長い間、空に出ることができない月が雲に隠されて残念だがこれから月は大きく大きくなるばかり。大好きな十三夜は来週の木曜か金曜。老犬ももこの命日は満月か、満月の次の夜になりそうだ。