午前中は小雨で風はなく、庭に出て取り残した梅を収穫し、ついでに徒長した梅の枝を剪った。
お昼前に友だちに電話をして、梅ジャムを作るけれど食べる?と聞いた。数年前から梅の季節には手作りの梅ジャムを友だちにあげることが習慣みたいになっていたがいちおう聞いてみたくて。友だちはおいしいから作るのが大変でなければ・・・・と言ったので、またあげることにしてそのジャムを午後作った。
ジャムを作っている間はガス台の前に付きっきりだったので、外がどんなふうになっているか知りようがなかった。何時頃だろうか。洋室の窓から庭を眺めると桃の木の太い枝の付け根がいつもと違う風に見えた。目を凝らすとわたしの二の腕より太い桃の枝が裂けている。裂けめは生々しい傷跡をみせてそれが目に留まったのである。裂けた太い枝さきは長く伸びてたくさんの桃の木がなっている。その裂けた重たい枝を他の枝がかろうじて支えているようだ。
風が荒れ狂い、庭の木々はもまれ乱れ、他の木もどうにかなってしまうのではないかと思えほど。ちょっと怖くなり、窓から離れた。だが居間にいても庭の額紫陽花がもまれるのが見える。花の咲いた枝があちこちにとびはね、見苦しいほどになっている。梅雨の時期にこんな風が吹くとは予想していなかったので風が鳴る音を聞きながら不安な気持ちになった。
雨が止んだ後も強い風が残った。夕方は青い空が見えたが風はあい変わらず強い。庭が暗くなっても空には明るさが長く残っていた。うっすらと茜色に雲がそまっている。庭木は風にもまれている。夏至の日の夕ぐれは一年でいちばん暮れにくいがまだ明るいと思っているといつのまにか真っ暗になる。日が長いので真っ暗になったとき寂しさがある。これから日が短くなるばかりというのも寂しさを増すのである。
昨年の老犬ももこがいた夏至の日の夕ぐれをなぜか映像としておぼえている。いつまでも暗くならない庭の柿の木のあたりを眺めた記憶がある。そして、いつまにか真っ暗になったときの寂しい気持ちも記憶に残っている。
みっしりと飾り花咲くあぢさゐの異星の花のごとく見ゆる
星くずを隠し持つあぢさゐの藍深まる雨近き夕
梅の実をとり終え枝はらいつついつか来た道の思ひにひたさるる
愛犬がこの世を去りて四年たちこの庭にも四年の変化
風荒れる庭を窓より眺めれば桃の枝ねもとより裂けてをり
桃の木のさけた太枝なまなまし明るき木肌そとにさらして
風鳴るを独りの部屋で聞き入りたりもまれ乱れる庭木眺めつつ