夕暮れ、金木犀の香りが・・・・・・・

 朝から雨が降り、日中は降ったり止んだり、蒸し暑かった、夕方、雨が上がり、日が残る夕空を刷毛雲が彩った。
 なんだか疲れが出て、午前中は眠るつもりがなかったがいつのまにか昼寝をしていた。気が付いたら、携帯電話を背中に敷いて眠っていた。着信があったが目を覚まさなかった。
 眠っても疲れがとれたという感じはなく、なんとなく胸がさわぐ一日だった。午前中、台所に立って何かしていると、突然、ワンと泣き声が聞こえた。えっ!と思い、居間や廊下を見て回った。レオの声に似ていたからだ。空耳だろうか。
 隣の家や真向かい、斜め向かいの家では犬を飼っているので、鳴き声はよく聞こえるが、いつもはワンワンワンと立て続けに鳴いている。
 突然のワンはその一声だけで、次がなかったので、確かめようがなかった。
 台所と居間を区切る硝子戸が風がないのに(窓や戸を開けていないから)、揺れて音をたてるのも気になった。疲れているから、つまらないことが気になるのかもしれないが、レオがわたしに何かを伝えようとしているのではないかとも思った。今日は何もしないでおこうと思った。
 ひとつだけ、期限切れ間近のセキュリティソフトのアンインストールと新しいソフトウェアのインストールはした。絵も一枚描いた。昨年植えたインパチェンスのこぼれ種から咲いた花を描いた。レオがいた昨年の初夏から秋にかけて咲いていた花だから。
 雨が止んだ夕方、玄関の戸を開けると、強い香りが鼻をくすぐった。金木犀だ。見上げるとまだほとんどつぼみの枝が見えた。つぼみはたくさん付いている。オレンジ色の花があまり見えないが、雨上がりで空気が重たく香りが沈殿しているのだろうか。なんだか涙があふれてきた。この香り。父母がいた頃は、わたしの部屋の雨戸を開けると、ツーンと香ってきて、秋の訪れを知った。なつかしい香りだ。
 昨年、レオがいるときはいまかいまかと金木犀の花が咲くのを待っていた。オレンジ色の花が枝にぎっしりと咲き誇った時はうれしかった。香りに包まれながらレオと庭や駐車場で過ごした。




サインペンでスケッチして、水彩色鉛筆で彩色した、
こぼれ種から咲いたインパチェンス