花暦―夾竹桃

 昨夕、家の前で老犬レオとうろうろしていたら、レオがきっかけで話すようになった女性が、河原での散策の帰りに通りかかり、立ち話をした。
 駐車場から庭が見渡せるので、自然と草木について話し、その女性は「ドクダミの花ってかわいいよね。白い花が咲くと、ああ今年も梅雨だなって毎年、思うの」と言った。ドクダミはわが家にもいっぱいあるが、通路に侵入してきたものは抜いている。ただ、植え込みの下などには生えていて、白い花を咲かせている。ドクダミの花と梅雨の季節を結びつけたことに軽い驚きを覚えた。
 駐車場横のベニカナメモチ近くに、何か花木を植えるつもりだったがあれこれ考えているうちに植えそこなったところに、アガパンサスを植えた大鉢を3つ置いてある。
 花茎を伸ばし、つぼみが紫色がかり、そろそろ咲きそうだ。その人は「花火みたいな花ね」と言ったが、そうだなと心から共感できた。青紫色の初夏の花火。アガパンサスの花のイメージそのもの。
 人それぞれ、花を見て季節の変化を感じ、花にさまざまなイメージや思い出を抱いている。庭には夾竹桃の鮮やかなピンクの花が咲きはじめたが、わたしはこの花を見ると、2年前の6月にタイムトリップしてしまう。6月初めに父が救急車で入院し、入院中の父がもう家のことを思い出せないと心細いことを言い出すので、わたしは庭の写真と愛犬レオの写真を持って行き、見せた。そのうちの一枚の写真が青空を背景に夾竹桃が咲いている写真だった。2年前は梅雨らしい梅雨ではなく、雨が降ったかと思うと上がり、晴れ間が見える、カラッとした 梅雨だったように記憶している。
 通路沿いに紫陽花とサツキが咲いている写真も持っていったが、父は「きれいだね」とひとこと言っただけだった。レオの写真にはなんの反応もなかったように思う。
 結局、父は一ヶ月くらい入院し、7月の初めに退院し、2日だけ家にいて、また同じ病院に入院した。2010年の東京は驚異的に暑い夏だったが、その間、父は寒いくらい冷房のきいた病院にいた。その間、庭には鮮やかなピンクの夾竹桃が咲き誇っていたのを覚えている。
 あのときは父にとってこの夏が最後の夏になるとは、思っていなかった。
 わたしにとって夾竹桃は暑い季節の始まりを告げる花。

 「ホワイトオランダ―」というアメリカ映画がある。ホワイトオランダ―とは白い夾竹桃の意味。ロサンゼルスを舞台にした映画で、山火事が頻発する暑い夏に、殺人事件が起こる。庭に咲く白い夾竹桃の花を切って、牛乳を入れたタンブラーになげこむというシーンがあった。夾竹桃には毒がふくまれている。女の殺意を象徴するシーンだったろうか。それともその娘の想像を映像化したものだったろうか。だいぶ前に見たので忘れてしまった。ただ、映画の中の白い夾竹桃も暑い夏を象徴する花だった。
 ただ、今年はいまのところ、あまり暑くなく、半袖を来たのはまだ1〜2回くらい。

 老犬レオと庭にいたとき、裏庭のほうに行って鉢植えの手入れをした後、戻って行ったら、珍しくしっぽを振ってくれた!しっぽをふって喜ぶなんて、ずいぶん久しぶり、すごくうれしかった。


まだ咲き始めの夾竹桃


お昼ごろ、トイレに外に出して、用を足したら、道路で寝てしまったレオ
この後、抱いて家に帰った