家のこと

父が残したのは、そうとう年季が入った家で、最初は平屋として建てた家を家族の成長とともに2回ほど建て増しした。
いちばん最初に建てた一階部分は、主に障子やふすまがある和室で構成され、庭を見渡す廊下もあり、昭和の初めころの家という感じだ。
テレビドラマやCFなどで、昔の和室が登場することがあるが、障子の具合や欄干などそっくりのつくりのものがよくある。
こんな古いつくりの家を以前はあまり好きでなかった。
ここで暮らしていた父母と同様に、年老いた家のように思い、古い、暗い、汚いと思っていた。
だが二人がこの世を去ると、不思議なことに好きでなかった家に愛着を感じるようになった。
父は生前、この家に強い愛着を持っていたと思うがその気持ちも今なら少しはわかるような気がする。
この古い家で(昔から古かったわけではないが)父母は45年くらい暮らしたのである。
わたしが小学校のころ最初の平屋を建て、高校生の頃、2階を建て増しして、自分の部屋を持つことができた。
だがこの自分の部屋にはあまり長くいなかった。
家を離れたのである。
その後も父母はずっとこの家で生活してきた。
最初は新しい家だったが、気づいたら古くなっていたという感じがある。
時間が流れたのである。
今、ガランとした部屋には晴れた日には木漏れ日がさし、和室の美しさをわたしに教えてくれる。
古くなったのはそれだけたくさんの時間が流れたから。
たくさんの時間を知っている、この家を少しだけ補修して、しばらくここに住んでいければいいと思う。