東京都美術館に「田中一村展」を見に行く

 曇天で蒸し暑い一日、上野講演にある東京都美術館に「田中一村展」を見に行った。

 JR上野駅公園口を出たのがお昼少し前、改札を出ると人の列ができていた。上野公園口の改札に一番近いところにある国立西洋美術館も人の列ができていた。ここはモネ展が開催中だ。すごい人出である。

 少し歩いて動物園の入り口の先に、東京都美術館がある。予想していたより多くの人が訪れている。「田中一村展」のチケット売り場は列ができていたが10分ほど買えた。

 展示会場もコロナで入場制限をしていた頃に比べると人が多く、入場制限も良い面があったと思った。

 鑑賞のため並んでいる列に加わらず、混んでいるところは見たいものだけ見てさらりと受け流し、これはというものはじっくり鑑賞した。

 田中一村の絵画の到達点が、永住した奄美大島で描いた作品だと思うが、初期の作品にもどこかに片鱗を感じた。草木や動物、虫など自然のとらえかただろうか。

 椿をモチーフにした屏風はすばらしかった。二つ折りの屏風が二対で構成されていて、ひとつは絞りと真紅の椿が葉の中に埋もれるように描かれている。もうひとつは何の絵も描かれていない金屏風である。椿の花と葉の存在感がせまってくる。

 いちばんの見どころは奄美大島で描いた作品群だろう。「榕樹に虎みみづく」は画面の上、ほぼ真ん中に虎みみづくを配し、画面全体は不思議な枝ぶりの木が描かれている。画面の左下に小さな鳥がいて奄美の海が遠く見える。 

 「アダンの海辺」は自分が描いた絵に対する田中一村の思いを書いた手紙が残っている。アダンの木の上方にひろがるうすい薔薇色の雲と、画面下の浜辺にある小さな小石が絵の中で一番重要な要素、というか彼が描きたかったものと書いている。

 「枇榔と浜木綿」のモノトーンの濃淡で描かれた世界にも魅かれた。

  鉛筆のスケッチで愛するお姉さんのデスマスクを残している。

  ショップではブランインド・ポーチを買った。田中一村の絵をプリントしたポーチが7種類、何が入っているかわからないまま買うのである。欲しい絵柄ではなかったが、展示会場で魅かれた絵のひとつがプリントされていたのでよかった。