午前中の早い時間、玄関の呼び鈴がなるので出ると若い女性と男性が立っていた。
この近所に引っ越しするご夫婦であいさつに来られた。わが家の前は一方通行の道路だがこの道に入る角にかなり大きな新築の家が建ち、販売中だった。その家に引っ越しするとのこと。
近所では物件の価格を聞いて、価格が高過ぎる、買う人が現れるのだろうかという人が多かったが、一件落着。あるところにはお金はあるものだと当たり前のことを感じた。
とても感じのいいご夫婦で、話すのは初めてではなかった。この方も保護犬を飼われていて、わたしが老犬ももこを連れて散歩しているとき、たまたま会って話しをしたようだ。実を言うとわたしの記憶はあいまいだが奥さんがももこのことをよく覚えてゐたので、少しづつ思い出した。
ももこの話が思いがけないところで出たので、思わず涙ぐんでしまった。ももこが不自由な感じに歩く姿を奥さんが口にされ、一瞬であの日に戻った。
あれからどんどん時間は過ぎ、界隈に新しい家が次々と建ち、新しい住人が引っ越してきて、さらに時間が加速され過ぎてゆくような気がした。
お昼前にいつもの近くの特別支援学校に足を運んだ。校内のカフェには友だちや知人が集まり、さらに今日はお客さんが多く、手ざまなカフェ内だけではおさまり切らず、生徒さんが給食に使う広い部屋も開放して、臨時カフェとなった。
わたしがここに通うようになって4〜5年になるがカフェに入りきれない人が訪れたのは2回目くらい。一回目は近くの女子高の生徒さんがわりと大人数で訪れたときだった。
おいしい珈琲を飲みながら他愛のない話に興じていると、さきほどももこを思い出して泣いたことが少しずつ遠ざかっていった。
界隈の新築したる家いえに昭和の記憶少なき世代
新しき人ら良き人ではあれどなつかしき人の面影よぎる
送り火の燃えがらしづか 揺らめける炎の記憶鮮らけく残し
歳月を越えて水筋つらぬきし町川の水いつよりか清し