学校でハモニカコンサート

 朝から晴れて日中は青空がひろがった。まだ葉っぱのない染井吉野の木の枝えだの向こうに白い雲と青い空が眺められた。冬の空とは違うどこかほどけた感じがある春の空だ。
 近くの特別支援学校で今日はハモニカのミニコンサートが開かれる。校内に小さなカフェがあり、そこによく来る初老の男性がハモニカ演奏をする。演奏する曲目は前もって学校側に知らせてあり、開催を知らせるチラシも作った。カフェによく来る人たちとカフェで実技実習をしている生徒と先生が主な観客である。
 演奏の前に男性は生徒たちとの交流を語った。バスでたまたま乗り合わせた生徒が声をかけてくれたことがあり、とてもうれしかったと。
 滝廉太郎の「花」から始まり、ビートルズナンバー「let it be」「オブディ・オブラダ」、平尾昌晃のヒット曲「瀬戸の花嫁」、ボブ・ディランの「風はどこに行った」など9曲プラス締めくくりに「蛍の光」を演奏した。演奏は独自のスタイルでハモニカの音にめりはりがあり、心に訴えかける。
 「蛍の光」を聞いていてなぜか涙がこぼれてきた。友だちもそう。友だちはこどもの卒業式を思い出したと言った。わたしはなぜ泣いたのだろう。たくさんの失ったものを思い出したからだろうか。このハモニカコンサートは老犬ももこがいた時、はじめて開かれた思い出深いもの。最初のコンサートを聞いた時は家でももこが待っていた。あのときのわたしはほんとうにももこのことを考えてせいいっぱいのことをしたのだろうか。
 午後からは予約した歯科医院に行き、歯のクリーニングをした。調子の良くない歯があるのでいつか治療が必要になる可能性がある。沈んだ気持ちで医院を出ると老犬ももこを思い出した。この歯科医院にはももこがいる時に通い始めた。ももこがいる時20回以上通ったのでこの病院を出るとほっとしてももこがまだいるような、家で待っているような気持ちになる。この気持ちを抱いたまま線路沿いの坂を下るとももこがいる時に戻れるような気になったがもちろんそんなことはありえない。

 広島に十四にて被ばくせしを女(をみな)は児らに語り継ぎたり

 電車待つベンチ男が指折りて数ふるを見れば歌詠うかと