登校する小学生を見て

 朝はかなり冷え込んだ。都心では零下の気温を記録したそうだ。朝から空は晴れ上がり、一日中、冷たい風が吹いた。
 朝食のパンがなかったので、近くのコンビニエンスストアに買い行った、その行き帰りのことだ。ちょうど時間帯が重なり、登校する小学生を見かけ、冬のある日のことを思い出した。
 2012年の1月か2月。雪が降ったその翌朝か翌々朝に昨年亡くなった柴犬レオと散歩に行ったときのことだ。歩く距離が短くなり、歩きながらも家まで帰れるかどうかを案じながら、途中どこで引き返そうか考えながら散歩していた。その日はいつもよりはレオの体調が良くて割合と歩いた日だった。
 今日のように登校する小学生の一群といっしょの方向に進んでいた。小学生たちは女の子と男の子のグループにわかれ、どちらも凍った雪を石みたいに蹴りながら歩いていた。その小学生たちとあと一区画歩こうかと迷ったが、その頃のレオにしてはだいぶ歩いたほうだったので、右に曲がる横道に入り、小学生たちと違う道を歩いて帰途についた。
 毎日の散歩の有様をすべて覚えているわけはなく、ほとんど覚えていないのだが何かいつもと違うことがあると記憶に残る。凍てついた朝の散歩は小学生たちの雪を蹴る様子が楽しそうで、いっしょにレオと歩いていることがうれしくて、憶えていたのだろう。
 家に帰り、朝食をとった後、庭に出て落ち葉を埋める穴を2つ掘った。木々の根が張っているのでそんなに大きな穴は掘れない。小さめの浅い穴を掘り、落ち葉をかき集めて放り込み、土を被せ、上から体重をかけて固めた。穴を掘る作業はわたしにとって楽な作業ではない。穴を掘りながら、昔見た映画を思い出した。映画のタイトルは忘れたが、ポール・ニューマンが主演で、刑務所から脱走する男を演じる。刑務所の管理官がポール・ニューマンを徹底的にいじめるのだ。所内の敷地で彼にシャベルで穴を掘らせ、また土を戻して埋め、埋めたものをまた掘らせるという意味のない繰り返しの拷問のような作業を命じる。これに対して彼は脱走という行為で対抗する。
 ひとつかふたつ穴を掘っただけで疲れたわたしは、あの映画のポール・ニューマンに感情移入してしまった。
 午後は写真を見て、人が住んでいない家並みをスケッチした。風が強いので外に立ってスケッチなど考えられないから。鉛筆で下描きして今日は終わり。


乙女椿がぼちぼち咲き始めた
ひと月ほど前から少しづつ咲いていたが
気温が低いので、花のピンク色が薄くて寒そうに見える


家がとりこわされ、更地になった土地の上に
月が出た