気になっていた老犬

 朝から雨が降ったり止んだりの天気だが、午後から外出した。自由が丘であるセミナーを受けるためだ。ここ数日、毎日のように昼寝をしていたので、椅子に座って資料を見ながらも話を聞いていても眠気が襲ってきた。あくびが出るのを抑えられないがなんとか眠らず、聞き終えた。
 セミナーを終え、自由が丘の駅前に新しくオープンした傘のお店に立ち寄った。細長いビルだが4階まで傘の売り場となっている。価格が手頃なので長傘を一本買った。傘の骨の数が多く(16本くらい)、風に強い傘だ。レジは混んでいて、2階までレジ待ちの人が並んでいる。一人で10本近くの傘を持って並んでいる人もいる。傘の取っ手が棒状になっていて、手が通せるように輪っかが付いた傘を買った女性がいた。この傘を持っている女性に街で会ったが、手首に輪っかを通し、手を下げた状態で傘が地面につかないので、すごく便利だ。たいていの傘は腕に傘の取っ手をかけると、腕を持ち上げていないと傘が地面についてしまうから。
 最寄駅からの帰り道で、昨年の10月くらいにある住宅の玄関先で見かけ、気になっていた老犬に久しぶりに会えた。玄関のたたきに新聞紙を敷き、その上に横座りして頭は上げていた。飼い主さんが新聞紙の上にした排泄物の始末をしていた。始末をし終えた所で、思わず声をかけた。「こんにちは。そのワンちゃん、何歳くらいですか?」「14,5歳だと思います」わんこは盛んに泣いている。この泣き方、この泣き声・・・・・昨年6月に亡くなった柴犬レオの最後の頃に似ていて、切なくなる。何を訴えて泣いているのだろう、と。何ものにも代えてでも、レオの気持ちを知りたかった、わかってあげたかった。
 飼い主さんがわたしのほうにわんこを抱いて連れてきてくれた。フェンス越しの対面である。飼い主さんが撫でてあげると、泣き声がおさまった。泣き方に特徴がある。喉をそらすようにして口を上に向けしばらく泣くと、今度は口をもごもごさせ、声音を出す。まるで、何かの不満や訴えを話したいのだが、うまく言葉にならない、そんなように聞こえた。
 目が白くなっているので目が見えない。耳も遠くて聞こえない。きっと、訴えたいことはたくさんあるのだろう。
 わんこは女の子で、フランス語で「黒」を意味する名前がつけられている。若い頃は真っ黒だった毛並みも白いものが目立ち、お尻の毛はこげ茶になっている。
 老犬の姿を前にして目頭が熱くなったが、何とか涙は堪えた。また会おうねと言って、さよならした後で涙がつっつーと落ちた。




雨の日に花開いたグラジオラス