朝の空

 秋は静かに歩みを進めている。
 老犬レオは昨夜も深夜前に眠りについた。寝る前の散歩でトイレをした後、いちども目を覚まさず、起きたのは翌朝6時ころ。隣に横になっているレオの歯ぎしりでわたしが目が覚め、時間を確認した。、手を貸して玄関の外に出した。
 大きな植木鉢に顔を下向きにして寄せ、歯ぎしりをしている。12時間ごとで昨夜1時半が薬を飲ませる時間だったのを思い出し、起きたばかりだったがチーズにくるんだ薬を飲ませた。
 しばらくして歯ぎしりが落ち着いたレオと庭の通路を、道路方向に歩いた。空を見上げると、きれいな雲と青い空。久しぶりに見た朝の空は、すっかり秋の空になり、ハッとするように美しかった。
 レオを駐車場に置いて、カメラを取りに戻り、何枚もの空の写真を撮った。
 レオは調子が悪い様子。くるくる回る、その回り方が小回りだ。調子がいいときは回っても大回りで、時間がたつとまっすぐ歩けるようになることがある。今日は回りたくないのに身体が回ってしまうみたいで、疲れるのではないかと思えた。
 気持ちのいい朝なので、抱いて近くの用水路にかかる橋まで行った。ここでほとんどレオは休んでいた。わたしにぴったりくっつくようにして。
 友だち犬がやってきて、飼い主さんに「今日はレオちゃん、早起きなのね」といわれた。確かに、レオは朝10時とか、午後1時とか、遅い時は3時くらいに起きることが多かった。
 友だち犬のMちゃんはレオの大好きな女の子で、一度、この犬の家まで脱走したことがあったが、今日はそばに来ても気がつかないみたいで、わたしの足の周りをまわっている。この様子を見ても、レオの調子の悪さがわかった。
 他に知り合いの犬とも橋の上で会ったが、あまり外にいても良くないかと思い、レオを抱き上げて、話しもそこそこに家に帰った。
 水も少ししか飲まず、朝ごはんも牛肉を4切れほど食べただけで、眠ってしまった。

金木犀香り立つ朝うろこ雲


 夕方になり、駅前のスーパーマーケットに車で買い物に行く。お店で叔父の奥さんに会い、立ち話をする。叔父は母の13歳違いの弟で、家にいることが多いがときどき電車で近くの街にでかけることもあるらしい。上の弟も同じ敷地に住んでいて、こちらはときどき1人で旅行のツアーに参加するようだ。
ふたりの叔父が元気なうちに、母の若い頃の話を聞きたいと思っていたのでそのことを奥さんに伝えた。
 スーパーマーケットの駐車場は金木犀の木がたくさん植えられ、広い敷地内に淡い香りが漂っていた。車で家に帰るまでの1キロちょっとの間に、金木犀の大木が20本近くあったのにも驚いた。昔からの家には2階の屋根を越すような、うっそうとした大木が存在感を示し、新しく建てられた家の庭には、若い木が植えられていた。この住宅街で見る限り、日本人は金木犀が好きなようだ。
 家の駐車場は満開に近い金木犀の香りが濃く、夕方の散歩で、レオといっしょに立っていると、香りを浴びている感じがした。
 レオはほとんど歩かず、わたしの脚の回りを回っているだけだった。それでも立ち上がろうという気持ちがあるみたいなので、脚の回りを歩かせた。
夕ごはんもあまり食欲がなく、あぶった牛肉、鰺のお刺身を少し、バタートーストの柔らかいところだけ一枚分を食べた。あと水で薄めた牛乳を飲んだ。
 レオが元気ないとわたしもドーンと落ち込みそうになるが、こういうときこそわたしが元気にならないといけないと思った。から元気でもいいから、がんばるぞ。