木登り


こどものころ、小学校低学年まではよく木に登って遊ぶことがあった。だがいちど、木から落ちたことがあり、背中を打ってすごく苦しい思いをしてからは木登りはいっさいしなくなった。大人になってからは植木屋さんが木に登るのを見て、よく登れるなと感心していたが自分で登るなんて考えも及ばなかった。ところが、である。先だっての台風で梅の枝が何本か折れた。地面に吹き飛ばさた枝は拾い集め、バキツと半分くらい折れた状態で宙ぶらりんになっている枝はノコギリで切って始末した。
ただ、一本だけ折れた枝が他の枝にひっかかり、地上からでは取れないものがあったのでそのままにしておいた。日にちがたり、葉が枯れて見苦しいので、長い棒でひっかけて振り落とそうとするがなかなか落ちない。そこで、登ってみるかと軽い気持ちで、太い幹に足場を探して体を持ち上げ、梅の古木に登ってしまったのである。木の上に立つと、なんだという感じがした。ここ数年、梅の実を収穫するために、植木屋さんにわざわざ来て、木に登ってもらっていた。枝先に生る梅の実は無理としても、わたしにもかなりの梅の実が取れそうだ。そんな感触があった。だが、実際やるかどうかは別の話。父は80歳代半ばまで梅の木に登って梅の実を取っていたが、あるとき、梅の木から落ちたことがある。だがそれほど大事にはならなかった。梅の枝がしなり、父の体はしなった枝とともに下の方に行き、そこで落ちたので、打撲傷は負ったが湿布のようなものを張っただけで大丈夫だった。だが、本人はやはり、老いによる限界を感じただろう。それからは多分、木に登ることはやめたと思う。