一枚の絵

 残暑は厳しいが朝夕は涼しい風が吹き、過ごしやすくなった。昨夜の老犬レオは12時ころ眠りについて2時ころ目が覚め、部屋をうろうろ。しばらくして眠り、次は4時ころ起きた。おしっこがしたいのだろうと思い、外に出すと読み通り家の前の道路にした。
 道路に出たころはまだ暗かったが、だんだん空が明るくなる。空気もひんやりしているし、この時間なら道路にいても快適だった。レオのためには毎日、この時間に起きた方がいいし、起きる時間が決まっていれば、介護する方も比較的ラクなのである。
 涼しいうちに家の前の道路を少しだけ歩き、家に入り、朝ごはんは8割程度食べた。食後はわりとすぐ眠り、次に起きたのは午後2時ころ。
 レオが眠っている間、わたしは気になっていた一枚の絵についてネットで調べた。テレビの「開運!なんでも鑑定団」で紹介されていた、岸田劉生の油絵「道路と土手と塀」(切通之写生)という油絵だ。
 舗装されていないからからに乾いた土の道路(坂道)と、右に白い塀、左に雑草がはえている土手を描いた、いわゆるきれいな風景ではないが、ひと目見た時、強烈な印象を受け、懐かしさを感じた。これは大正4年の作品で、この作品に描かれた場所はいまもある。東京・代々木である。もちろん、現在は絵に描かれた風景とはまったく変わっている。、
 この絵に描かれた土の坂道、下から見上げると道路や土手の向こうに空が見える。これはこどもの頃(たぶん、中学生くらいまでか)、学校の行き帰りに歩いた道と同じである。こどもの頃は泥道で、乾燥すれはほこりがまい、雨が降ればぬかるんだ。わたしが生まれた地域は高低差が激しいので、坂道が多く、まだ切り開かれていない土地がたくさんあり、坂道や切り立った土地の向こうに空が眺められ、谷間と向こうの高台が一望できる切り通しもあった。
 岸田劉生の絵は、こどものころ、わたしが大好きだった風景そのもので、絵を見たことで一気によみがえってきた。
 岸田劉生の作品を、東京都国立近代美術館のサイトの所蔵作品・フィルム検索で見ると、この切り通しの油絵は彼が描いた風景画の中でも特異な感じがした。他の風景画は、銀杏の木がある風景だったり、川辺だったり、草原だったり、風景としてきれいだなと思えるものが多いが、これはたいぶ違う。
 あまり風景画として描かれそうにない風景だが、そういう風景を描いたこの絵は風景画として最高のレベルに到達している。
 見えないものもここに描かれているような気がする。坂の向こう、土手の向こうへの思い・・・・・・・・。


朝焼けが空を染めている
この時間は短く、すぐ空は明るくなる